【NIKE AIR JORDAN 3 RETRO "MOCHA"】
美しいから残るのか、残るから美しいのか。
数多くの「名作」と呼ばれるプロダクトがこの疑問を秘めている。
NIKE Air Jordan3 retro"MOCHA"(ナイキ エアジョーダン3レトロ 「モカ」)が2018年12月15日にリリースされた。
2018年、エアジョーダン3は1988年の誕生から30年を迎える節目の年を迎え、それに合わせて様々なカラーバリエーションが販売された。
2001年の発売当時、チャコールを配色に用いたエアジョーダンは珍しく、"MOCHA"はエアジョーダン3の中でも特に人気を博したモデルだった。
「復刻」。
"MOCHA"を目の当たりにした際、筆者はこの言葉に対して色々なことを考えた。 ジョーダンシリーズは、これまでも数え切れないほど復刻されている。 面白いことにジョーダンシリーズは素材やフォルムをマイナーチェンジするなど、オリジナルと全く同じ商品を復刻することがない。 その理由としては諸説あるが、「ジョーダンブランドは絶えず進化する」ことを体現していると耳にしたことがある。 今回の “MOCHA” も素材がマイナーチェンジされ、2001年当時から着実に「進化」を遂げている。
ジョーダンシリーズにおいては、マイケル・ジョーダンが当時履いたオリジナルモデルの復刻、 通称「OG」モデルが復刻される度にスニーカーヘッズを熱狂的にさせる。 筆者にとって思い出深いのは、2016年9月に復刻されたエアジョーダン1OG、通称「Bred」だ。 プロペラ通りにあるTokyo23のオープンを記念し、わずか100足程度のスニーカーを買い求めるために数千人が押し押せ、 30度を超える気温の中、明治神宮前駅から外苑前駅付近まで長蛇の列を成したことは記憶に新しい。
このように「OG」の復刻ともなれば、スニーカーヘッズ達の購買意欲を刺激し、躍起になってそれを買い求める。 そこにいるのはジョーダンファン、オリジナル発売当時の想い出に浸る者、ただカッコいいから欲しいと思う者、 二次流通で高額転売を狙う者、レア物マニアなど、客層や年齢層は様々だ。 このように「復刻」といえば「OG」ばかりが注目され私たちを熱狂的にさせるが、それ以外のモデルの復刻にはどのような意図があるのだろうか。
今回復刻を遂げた "MOCHA"は、ご存知の通り「OG」ではない。エアジョーダン3はジョーダンシリーズとして初めてビジブルエアを搭載しており、
加水分解のような致命的な経年変化も運命付けられている。果たしてこの"MOCHA"には「OG」のような付加価値があるのだろうか。
なぜ17年振りというタイミングで "MOCHA"を復刻させたのか。たった一足のスニーカーから「復刻」について考えを巡らせた。
そこに意味を求めること自体が間違いなのかもしれないが、筆者は今回の “MOCHA” 復刻について自分なりにその意味を考えてみた。
言葉足らずのためあまり上手く説明する自信がないので、ここでNHKのスポーツ解説者、山本博氏の言葉を借りることにする。
冒頭に書いた通り、エアジョーダン3は誕生から30年経過した。"MOCHA"も初登場の2001年から今回の初復刻まで17年の歳月を要している。
当時の若者が小遣いを貯め、一足のエアジョーダンを買う。その若者が大人になり、家庭を築き、子供を育て、
その子供が親と同じように小遣いを貯めて一足のエアジョーダンを買う。30年、17年という歳月は、実にここまで長い時間なのだ。
現にNIKEはエアジョーダンの復刻に際し、メンズ、レディース、キッズ、ベビーといったサイズの同時展開も精力的に行なっている。
ここにはおそらく「復刻」を機に、どうか世代を超えて家族全員でエアジョーダンを楽しんで欲しいという思いが込められているのだろう。
スニーカーは10代、20代を筆頭に、50代を超えた幅広い年齢層にまで支持される。
彼らの中で時にジェネレーションギャップという軋轢をも生じるが、それでもカタチはどうあれ「スニーカーが好き」ということは共通している。
平穏な日々もあれば、リリースラッシュの嵐に見舞われることもある。売る側も把握しきれないほど目まぐるしく商品は入れ替わり、 ユーザーも把握しきれないほど流行は際限なく移り変わる。それに合わせて二次流通の相場も乱高下を繰り返す。 この嵐のようなスニーカー市場を、「買えた、買えない」などというようなくだらないマネーゲームの次元を超え、 世代を超えてそのスニーカーの歴史や時代背景について楽しむことはできないだろうか。 世代が変われば考え方も大きく変わるのは当然であるが、17年振りの"MOCHA"復刻は、この世代間のギャップを埋めることに一石投じている気がしてならない。
さて、冒頭で投げかけた疑問に話を戻そう。 そもそも「OG」であろうがなかろうが、復刻を繰り返す商品が「名作」たる所以ではない。 「復刻」することがゴールではなく、「復刻」した商品に当時の思いを馳せ、 オリジナルを知らない世代と共有してこそ、その復刻商品が後世まで語り継がれる「名作」となる。 "MOCHA"を名作スニーカーとして位置付ける要因は、メーカーでも売り手でもなく、世代を超えたユーザー達の思いなのだ。