K・SWISS
2019 SPRING / SUMMER RECOMMEND ITEM
== HS329 ==
K・SWISSのHS329を初めて目の当たりにし、 この記事を書きながら、筆者はあるときの記憶を鮮明に思い出している。
それは2018年7月23日のこと。 都内某所で開かれた第2回atmos jamに参加した際の記憶である。
その日のテーマは「ダッドシューズについて」。 タイトルの通り、ダッドシューズとは何たるか、 ゲストの方々とともに語り合う会だった。ダッドシューズとは概して 「休日にお父さんが履いていそうな野暮ったい厚底シューズ」のことを指すらしい。
Balenciagaが2017年6月21日に発表した2018ssコレクション“Dad core”が、 おそらくダッドシューズが初めてハイブランドから世に提起された瞬間だろう。 しかしその源流を辿ると2015年頃、一部のスニーカーフリークが、 プレミアムスニーカーの高騰とそれを血眼になって追いかけるスニーカーヘッズに対するアンチテーゼとして、 休日にお父さんが履く靴をネタにして履きだしたところが一応のルーツとされている。
そのような話を当時会場で聞きながら、ふと思ったことがある。 この話になんの意味があるのか、と。
もちろん、atmos jamの企画そのものを否定するつもりは毛頭ない。 そして、とても充実した企画であったことも間違いない。 筆者が言いたいのは、「ダッドシューズ、かくありき」と話しあうことに なんの意味があるのだろうかという疑問だった。
ダッドシューズとはもはや、厚底でウィズの幅広いシューズの 愛称やトレンドの名称として定着している。 しかし、それをあれこれと定義づけ、 今後の動向や方向性について探る意味などあるのだろうか。
前述の通り、ダッドシューズの位置付けとして、以前は高騰するスニーカーブームへのアンチテーゼ、 オシャレな全身コーディネートの足元の外しとして身につけられていたものである。 しかし2019年現在、ダッドシューズそのものがオシャレアイテムである。 ファッショナブルで、クッショニングも安定性も抜群で、見た目に重厚感があり、それでいて軽い。
今、街中に溢れているダッドシューズは、 もはやファッションに無頓着なお父さんが休日に履くような野暮ったいシューズではない。
上記の理由で、筆者はいつもこのような厚底シューズのことを、 敬意を込めて「チャンキー(底が分厚い)シューズ」と呼んでいる。 K・SWISSのHS329はまさに「チャンキーシューズの域を脱したチャンキーシューズ」と言えよう。
K・SWISSはもともと無骨ながらハイパフォーマンスな厚底靴を数多く手がけているため、 今回発売されるHS329を一言でチャンキーシューズと位置付けるのは失礼に値するかもしれない。 しかしここでは敢えてその形状からチャンキーシューズにカテゴライズさせていただくとする。
シンセティックレザーで作られたウィズの広いアッパーに テニスのトレーニングシューズのソールを合わせて作られたこのシューズは、 日韓合同チームにより開発されたものだ。 勿論、トレードマークであるアッパーの5本ラインを搭載するなど、 K・SWISSの伝統をしっかりと踏襲している。2002年に発売されたST329の現代版と言ったところだ。
K・SWISSは、スイス出身のブルナー兄弟が1966年にアメリカ、 カリフォルニア州でスタートさせたシューズメーカーである。 もともと良質なテニスシューズを作りたいというブルナー兄弟の願いから同社が誕生し、 世界初のオールレザー製テニスシューズを開発した。 実はそのブルナー兄弟、テニスプレイヤーでもありながらスキーヤーでもあったそうだ。 K・SWISSがボリューミーなスニーカーをデザインするのにも長けているのは、 成る程そのような背景があるのかと要らぬ詮索をしてしまうほどに、HS329は無駄の無い洗練されたデザインである。 値段も1万円以下と手頃で、幅広い年齢層から支持される一足であることは間違いない。
当時ブルナー兄弟はテニスコートに、どのような夢を馳せたのだろうか。 険しい雪山を、どのように滑り降りたのだろうか。 創業から50年以上を経た今、K・SWISSのシューズはテニスコートを飛び出し、 コンクリートの街並みへとフィールドを広げた。 険しい雪山は、高層ビル群に姿を変え私たちの前にそびえ立つ。
目まぐるしく移り変わるそのフィールドで日々闘いを挑んでいる私たちの足元に、 HS329はどんな意味を与えてくれるのだろうか。 現代の「アーバン・コート」を闘い抜くためには、チャンキーシューズのような分厚い底力が必要だ。
TEXT:めるし